ペルソナって何だろう?政策づくりの新しいツールを試してみた
みなさん、こんにちは。JAPAN+Dプロジェクトメンバーの沼本です。
わたしは、全国に8カ所ある経済産業省の地方支部(支店のイメージ)のうち、関西にある「近畿経済産業局」で働いています。
わたしは主な仕事として、ものづくり企業の支援、特に航空機産業の方々の支援に長く携わってきましたが、凄い技術や経営哲学をお持ちなのに、一社一社の色がサプライチェーンの中で埋もれてしまい、もったいないと感じるケースがよくありました。
そんな中で、企業の魅力を高める考え方の一つとして、「デザイン経営」に出会いました。デザイン経営に取り組まれる企業のみなさまの生き生きとした姿や熱量に感化されるように、「デザイン」の魅力と可能性に惹かれ、そして政策づくりにももっと活用していきたい、そんな思いが湧き上がってきました。
今日は、デザインの考え方の一つである「ユーザー中心」の考え方にもっと気軽に触れるために作ったツール(中小企業ペルソナカード)のご紹介とトライアルの体験談をご紹介します。
政策に「ペルソナ」という考え方を応用する
私たちは普段、世の中の大きなトレンドや産業の特徴、そして産業を形づくる企業の方々やそういった声を集めている機関の方々を対象とした調査事業などを行って、どんな政策が必要なのか考え、作っています。
しかし、いわゆる「ユーザー像」は、その分野においてマスボリュームになるぼんやりとした人物像になってしまいがちです。ユーザーの中にも、様々な方がいる中で、その人達を取りこぼしているのではないか、あるいは、あまり具体的な人物像が描けていないのではないかという課題感がありました。
たとえば、わたしが仕事で日々対面している「中小企業」の方々は、一社一社個性があって、全然違う会社です。しかし、「中小企業」と一言で言ってしまうと、「縁の下の力持ち」のようなイメージに近いかもしれません。
実は、中小企業のすべてが「縁の下の力持ち」ではないんです。縁の下ではなく、日本のフロントランナーとして世界で戦う企業、技術力だけでなく豊富なアイデアとビジネスモデルで市場を先導する企業、地域に留まりながらも世界中と取引する企業、高いバイタリティと機動力でビジネスを立ち上げ成長を目指すスタートアップ企業・・・これらも「中小企業」なのです。
「中小企業」という言葉にした瞬間、個性が埋もれ、世の中に浸透しているバイアスに囚われてしまいがちになる。この違和感が自分の出発点でした。
バイアスを外すための「ペルソナづくり」
現在、日本における「中小企業」は、資本金が製造業で3億円以下、サービス業で5千万円以下、または従業員数が製造業で300人以下、サービス業で100人以下の企業などと定義されています。
(中小企業庁:https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html)
2020年の中小企業白書では、その機能や役割に応じて中小企業を捉え直す試みもされました。資本金や従業員数などの定量的な基準で「中小企業」を定義するだけでは、実態に必ずしも合わない時代なのかもしれません。
そんな中、中小企業向けの政策をよりよくしていくために、いくつか新たな要素が必要な気がしています。その一つが、政策を実際に使うユーザー(中小企業)を起点に政策を考えること。誰のために政策をつくるのか、誰にどうなって欲しくて政策をつくるのか、誰に届けたい政策なのかを、はっきりとイメージすることで、より良い政策ができるのでは、と考えています。
そこで、JAPAN+Dプロジェクトでは、政策をつくる人や産業支援を行う人向けに、政策のユーザーをよりクリアにするツールを考えました。
その名も、「中小企業ペルソナカード」。いわゆる、デザインアプローチの手法の一つである「ペルソナ」の考え方をベースに、ユーザーをより深く理解するためにゲームチックに考えられるツールをトライアルを重ねながら作ってみました。
ペルソナを考えてみることで見えてきたもの
実際に作ってみた「中小企業ペルソナカード」を使って、中小企業向けの政策を考えたり、地域向けの政策を考える担当でテストをしてみました。
(どんな使用シーン?)
今回は、企画中の新しいプロジェクトを考えているメンバー2名と、そのサポート役の2名が1チームとなって、どんなターゲット向けに政策をつくり、届けるか、その整理のために、ペルソナカードを利用しました。
(どんな使い方をした?)
今回は、新しいプロジェクトの目指すべきゴールにすでに達しているような企業を実際にイメージし、ペルソナカードを使って、その企業を要素分解してみました。・・・①
次に、目指すべき姿に近づいて欲しい企業をイメージし、同じくペルソナカードで要素分解してみました。・・・②
最後に、①と②のギャップがどういったところにあるのか、そのギャップを埋めるためにはどんなアプローチがありうるか、この仮説を深堀りするために、どういったところにインタビューができそうか、チームでブレインストーミングを行いました。
(使ってみた結果)
今回、4人でペルソナカードを使ってみて驚いたことは、新しいプロジェクトで目指す企業のイメージ(①)も、その姿に近づいて欲しい企業のイメージ(②)も、必ずしも同じペルソナカードの組み合わせは出なかったことです。
これは、政策の担当一人ひとりがイメージしている政策のターゲットのズレを、アイデアを出すフェーズなどでしっかりとチューニングしておくこと、そのチューニングには、今回用いたペルソナカードのように、一人ひとりの考えを可視化するツールが有効ではないか、というヒントを得ました。
(今後)
今回は、このような使い方の一例をご紹介しましたが、テストユーザーの方が口をそろえて言っていたのは、「このツールでペルソナがクリアになるわけではない、ペルソナをつくるということよりも、プロセスの中でチームメンバーの価値観に触れること、そこから生煮えでもアイデアをたくさん出すことに価値があった」ということでした。
まとめ
今回は「中小企業」がテーマでしたが、どんな政策に関しても「政策の受け手」をペルソナとして具体的にイメージすることは大切だと感じました。このカードの作り方をさらにブラッシュアップして、他の政策にも応用できるスキームにしていきたいと考えています。
もっともっとたくさんの政策の担当者や産業支援の担当者に、より良い政策づくりの1歩目として使ってもらえればと思いますので、ぜひダウンロードいただき、いろんな方とチームになって使ってみてもらえると嬉しいです!(フィードバックもお待ちしております)