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「人にやさしい政策づくり」を目指して

はじめまして、JAPAN+Dチームの柳です。
私は経済産業省入省4年目の職員で、現在は関東経済産業局から中小企業庁商業課に出向し、主に商店街振興を担当しております。私がデザインと出会ったのは、特許庁が推進する「デザインアプローチ」を中小企業の皆さんの経営に導入していただくためのプロジェクトです。
このプロジェクト活動を通じ、企業経営だけでなく行政活動にもデザイン活用の可能性があると感じ、JAPAN+Dプロジェクトに参画しました。
特許庁デザイン経営プロジェクト
https://www.jpo.go.jp/introduction/soshiki/design_keiei.html

今回はJAPAN+Dプロジェクトを通じ、政策へのデザインアプローチ導入に挑戦した取り組みについてお届けしたいと思います。

突然ですが、みなさんは日本の政策がどのようにつくられているか、ご存知でしょうか?

1.日本の政策は果たして「やさしい」のか

大まかに政策は、データや関係者へのヒアリングを通じて実態を把握し、課題を設定、課題設定に対応する具体策を有識者との議論を重ねて形成されています。そして、このプロセスに関わるメンバーがそれぞれ「日本の未来をよりよくしたい」という想いをもって、議論しています。

しかしながら、従来のプロセスではどうしても関与できるメンバーが限られてしまうこともあり、ともすれば、最終的な政策の受け取り手である「あなた」に寄り添っているかどうかという観点が抜け落ちてしまうことがあると思います。現場の調査やヒアリングはしていますが、限られた時間の中では、必ずしも本音・本当の課題を聞くことが出来ていないかもしれません。

今の政策にデザインを+αすることで、届けるべき「あなた」に寄り添った「やさしい」政策をつくりたい。そんな想いで、私たちは「デザインアプローチを取り入れた政策づくり」に挑戦しました。


2.政策にデザインアプローチを取り入れるとは

普段の政策立案と「デザインアプローチを取り入れた政策づくり」が大きく異なるのは、ユーザーを想い、強く寄り添うプロセスがあるかどうかです。

会議室だけで政策を議論し続けていると、本来届けたかったユーザー像がぼやけてしまったり、ユーザーが共感する課題からずれてしまうこともあります。

私たちJAPAN+Dは、課題を抱えたユーザーに寄り添い、深く共感するために、政策にデザインアプローチを取り入れるべきだと考えています。

デザインアプローチを取り入れた政策づくりとは、大きく以下の4つのステップを回し続けることだと考えています。

①ユーザーと対話し、ユーザーの立場になって実態を把握する
②対話で得た情報から仮の課題を設定する
③課題設定に対応する解決策を考える
④政策をユーザーに届け使ってもらう

今回は、試行的に④を除いた3つのステップで実際に政策を考えるワークショップを実施しました。「あなた」役として参加してくださった、企業の方をはじめとした協力者の方々と対話させて頂き、そこで得た情報から仮の課題を設定。改善を前提に解決策を考えました。

3.デザインアプローチを取り入れて感じた気づき

今回のワークショップでは、中小企業診断士制度(*1)、ミラサポPlus(*2)、サーキュラーエコノミー(*3)政策の3つを取り上げました。

(*1)中小企業者の経営課題に対応するための診断・助言を行う専門家を、中小企業診断士として経済産業大臣が登録するための制度
(*2)中小企業・小規模事業者、個人事業主が簡単に支援制度を検索、申請を行うことを目指したサイト
(*3)3Rの概念に加え、シェアリングやサブスクリプションといった循環性と収益性を両立する新しいビジネスモデルの広がりも踏まえた、持続可能な経済活動

それぞれのワークショップの詳細については別の記事でお届けしますが、今回は以下のような流れで実施しました。

①ユーザーと対話し、ユーザーの立場になって実態を把握する
今回それぞれのテーマで、「あなた」役の方々に対してインタビューを行いました。一問一答ではなく、デプスインタビューという手法で対話を重ね、一時間という時間の中で、相手の深いところにある本音を引き出していきました。その結果、これまで聞いたことがなかったような話がどんどん出てきました。
私たちだけでなく、「あなた」役の方々も「考えが整理された、新しい気づきがあった」と話していただきました。通常の限られた短い時間による聞き取りの限界を感じたと同時に、深く対話することの重要性を感じました。

②対話で得た情報から仮の課題を設定する
対話で得た情報をフレームワークを用いて分類し、整理することで、「あなた」役の方々自身ですら気づかなかった課題(のようなもの)が見えてきました。
それを踏まえ、各チームが解決すべきと考える仮の課題をたてました。私たちJAPAN+Dメンバー同士も対話を重ねる中で、意識が統一されていく実感がありました。

③課題設定に対応する解決策を検討
「あなた」役の方々を交え、批判はしない・質より量を重視するなどルールを設定したブレインストーミングにより、発想をふだんよりも飛躍させて解決策を考えました。
「あなた」の立場になって考えたことで、これまでよりもより深い、本質的な課題の解決に向かうことが出来そうな手応えを感じ、わくわくしながら進めることができました。

4.「正しい」に「やさしい」をプラスする

今回のワークショップを通じて、行政以外のさまざまな立場の人が参加し、対話によってユーザーである「あなた」に深く共感することが重要であると実感しました。

参加者全員がこれまでにない気づきを得ることができ、デザインアプローチを取り入れた政策づくりに可能性を感じました。

これまでの「正しい」政策づくりも間違いではありません。しかし、分野によっては、デザインアプローチを活用した「やさしい」政策づくりをすることで、これまでより多くの「あなた」が幸せになる可能性もあるのではないかと思っています。

JAPAN+Dは、これからもこのような実験的な試行を続け、その可能性を模索していきたいと考えています。